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神戸地方裁判所姫路支部 昭和43年(わ)264号 決定 1968年7月02日

被告人 H・R(昭二五・八・一六生)

主文

本件を神戸家庭裁判所姫路支部に移送する。

理由

被告人に対する本件公訴に関し、当裁判所が認定した事実は、

「被告人は、

一、Aと共謀のうえ、金品を強取しようと企て、昭和四三年四月○○日頃の午前二時過ぎ頃、Aは刃渡り約一七糎の菜切包丁(昭和四三年押第八六号の三)を、被告人は長さ約二〇糎の鉄棒(自動車用工具モンキースパナ)(同号の二)をそれぞれ携え、兵庫県多可郡○○○町○○所在○○○町農業協同組合北支所に赴き、西側入口から宿直室に入つたところ、就寝していた宿直員○原○晴(当時二一歳)に発見されたので、被告人において蒲団を冠つた右○原の頭部付近を前記鉄棒で数回殴り、起き上つた○原と被告人が掴み合いとなるや、Aにおいて前記菜切包丁で○原の頭部顔面等に切りつけ、同人の反抗を抑圧したうえで金品を強取しようとしたが、同人が大声をあげて抵抗したために、犯行を断念して逃走し、その目的を遂げなかつたが、その際右暴行により同人に加療約一四日間を要する頭部顔面両手掌部切創の傷害を負わせた、

二、Aと共謀のうえ、同月△△日の午後九時頃、同県加西市○○町○○×××番地食料品店○本○○ゑ方において、同人所有の現金約三万三〇〇〇円在中の手提金庫一個を窃取した、

ものである。」というにある。

右事実は当公判廷で取調べた各証拠によつて明らかであり、被告人の右所為中、強盗致傷の点は刑法六〇条、二四〇条前段に、窃盗の点は同法六〇条、二三五条に該当する。

そこで、被告人に対する処遇について考えることとする。

被告人の本件犯行はいずれも年長の友人Aとの共謀に基く行為であるが、第一の強盗致傷の犯行は、強盗の点は未遂に終わつたとはいうものの、多分に計画性を有し、Aとともに兇器をもつて被害者に暴行を加え、頭部及び顔面等に重大な創傷を与える等極めて悪質な犯行といわなければならない。

しかも、被告人の経歴、性格等を見るに、被告人は昭和四一年三月中学校卒業後、数回に亘つて職業を転々と変え、同四二年五月頃病いを得て退職して後は、病気回復後も殆んど定職に就かずに、父のもとで無為徒食の生活を過してきた者であつて、職場に対する定着性勤労観念に欠けているところが見られ、その性格は、少年鑑別所の鑑別結果通知書等によれば、顕示的独善的傾向強く、社会に対する不信感、反抗心を抱き、やくざ的なものに対する積極的な親和性を示し、更に短気攻撃的傾向が目立つ等性格偏倚大きく反社会的構えが著るしいとされるから、予後の危険性は楽観を許さないと考えられる。

従つてこれらの事情を考慮して、家庭裁判所が被告人を保護不適として検察官送致の決定をした措置も、必ずしも首肯し得ないことではない。

しかしながら、被告人は従前道路交通法違反が一件あるのを除いては非行歴なく、未だやくざの世界に足を踏み入れている気配は見られず、本件犯行も、Aが金策に窮して計画していた強窃盗に追従的に協力したものといえるのであつて、被告人単独で本件の如き犯行を計画実行に及ぶことはなかつたと考えられるうえ、その犯行の態様においても攻撃性を有する反面単純さ、稚拙さが目立ち、被告人自身本件犯行を反省していることが窺われるから、被告人において未だ非行への親和性が高度なものとは認め難く、更に、被告人は未だ年齢一七歳であつて、家庭においてはどちらかと云えば従来放任されて過し、厳しい訓戒指導を受けた経験が少い等の事情を考慮すれば、被告人の前記の如き性格、生活態度も矯正の余地がない程固着したものとは云えないから、いま保護処分による更生を計ることを断念するのは時期尚早であるという外はない。

また、被告人を仮りに刑事処分に付するとすれば、酌量減軽を施しても、最短期三年六月以上の不定期刑に処さざるを得ないが、このような処置は、他に余罪があり、本件犯行において主動的役割を果したAの刑期が懲役三年六月であるのと比較すれば量刑上均衡を失するうえ、本件犯行については被告人の両親において被害弁償に努めている外被告人について前記の事情があることを考慮すれば、刑事政策上妥当とは云い難い。

よつて、当裁判所は被告人を刑事処分に付するよりもむしろ保護処分に付することによつて施設収容等の強力な指導教育を施し、被告人の前記の如き性格、生活態度を矯正し、非行性を除去し、更生を計るのが相当と思料し、少年法五五条により本件を神戸家庭裁判所姫路支部へ移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村上喜夫 裁判官 亀岡幹雄 裁判官 宗方武)

参考

受移送家裁決定(神戸家裁姫路支部 昭四三(少)一六〇三号 昭四三・七・一一決定報告四号)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)(編・地裁移送決定書記載の犯罪事実と同一につき省略)

(適条)

第一の事実 刑法六〇条、二四〇条前段

第二の事実 同法六〇条、二三五条

(処遇について)

本件は当初少年法二〇条により検察官送致となつたところ、神戸地方裁判所姫路支部において審理のうえ、同法五五条により当庁に再送致されたものである。

そこで少年の処遇について考えることとする。

本件非行のうち強盗致傷は多分に計画性を有し、攻撃的傾向著るしく、その態様は極めて悪質といわなければならない。少年の生活歴を見るに、少年は幼少時から両親共稼ぎの家庭で祖母に生育され、適切な躾けを受ける機会に恵まれず育ち、昭和四一年三月中学校卒業後は数回に亘つて些細な理由で職場を変え、昭和四二年五月頃以後は土工等をして三週間程勤めた期間を除いては定職に就かず、パチンコに耽りながら無為徒食の生活を送り、職場に対する定着性、勤労意欲に欠けているところが見受けられる。

本件非行は、○○会の若衆である実兄の舎弟Aに無批判に協力して行動したものであるが、少年は実兄の影響もあつてか、やくざ的なものに対するあこがれを抱き積極的に親和しようとする傾向を有し、その性格は、顕示的、独善的傾向強く、社会に対する不信感、反抗心を抱き、短気攻撃的傾向が目立つ等性格偏倚が著るしいとされる。(以上少年調査票、鑑別結果通知書等参照)

以上を綜合するに少年の非行性は高く、予後の危険性は楽観を許さないと考えられるが、少年の年齢、非行歴がないこと、反省の色が見えること等の事情を考慮し、少年を中等少年院に収容し、矯正教育を受けさせ、少年の更生を計るのが相当と考えるので、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。(裁判官 宗方武)

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